家庭を持ったら、興味のある仕事を目指してはいけないのか|整備士を諦めた会社員が考えたこと

働き方・生き方

新卒で国内メーカーに入社して、気づけば中堅と呼ばれる年次になりました。

今の仕事について、自分から勉強したいと思うことはほとんどありません。仕事だから仕方なく、です。それなのに、車の構造や整備については、頼まれてもいないのに調べて手を動かしてしまいます。

その違いに気づいたとき、「自分は仕事そのものが嫌いなのではなく、今やっている仕事に興味がないだけなのではないか」と思いました。

調べているうちに、興味だけで終わらせず、本当に仕事にできないかと考えるようになりました。専門学校に通って資格を取り、整備の仕事に移る。それまで築いてきたキャリアを一度外れる選択です。電動化や電子化が進めば、高度な知識を持つ整備士には価値が出てくるのではないか、という読みもありました。ただ、きっかけは将来性より、自分から調べたくなる数少ない対象だった、ということです。

上司に「無謀」と言われて

専門学校のことを、上司に相談しました。返ってきたのは、「家族もいるのだから無謀ではないか」という趣旨の言葉でした。

もっともな部分はあると思います。ただ、少し引っかかりました。

結局、専門学校には行かず、その道には進んでいません。それでも、この言葉が今も残っています。家族を持ったら、興味のある仕事を目指してはいけないのか。興味のない仕事でも続けるのが大人なのか。続けられない自分がおかしいのか。

この記事では、論文もいくつか借りながら、この疑問を考えていきます。

本当に「無謀」だったのか

「無謀」とは、見通しなく賭けることだと思います。だとすれば、上司に止められた計画が無謀だったかどうかは、見通しの中身で決まります。

自動車整備士は国家資格で、一級から三級と特殊整備士に分かれます[1]。国土交通省は2022年5月に、電子制御の内容を含む資格の設定など、自動車技術の進化に対応する資格体系の見直しを公表しました[2]。加えて、今後自動車はさまざまな種類のEVが占めることになります。EVの整備は、1級整備士しか行えません。私の読みは、そうした動きを見たうえでのものでした。ただ、整備士の需要が今後どうなるかは、この記事では断定しません。当時の私の考えです。

読みが外れることも、当然あります。「無謀」かどうかは、外れたときに何が起きるかを見ないと言えません。

妻の収入も含めて、条件は家庭ごとに違う

「30代で子どもがいる会社員」とだけ聞けば、安定した収入を手放して専門学校へ行くのは、リスクの大きい選択に見えます。

ただ、家庭の事情はそれだけでは分かりません。わが家では妻にも十分な収入があります。仮に私の収入が一時的に下がっても、すぐに生活が成り立たなくなるわけではありません。もちろん、だから好き勝手していいという話ではありません。学費もかかりますし、学校に通えば育児に使える時間も減ります。

それでも、家計と育児について夫婦で話し合って、家庭として許容できるのであれば、「夫が安定した会社員を辞める」というだけで、無謀になるのでしょうか。妻が高収入なら夫がキャリアのリスクを取る、という選択肢があってもいいのではないか、と私は思います。

家族がいるから無謀、ではなく、失敗したときの影響を家庭で吸収できるかどうか。条件は、家庭ごとに違います。

この点は、別の記事にも書いています。

→ 妻のほうが年収が高い家庭で、夫はどう働くべき?

キャリアを変えるのは何歳まで許されるのか

20代なら変えてよくて、30代、40代なら諦める、という境界線があるとは思えません。年齢で変わるのは、別のことです。

学び直した分を取り戻せる期間。学校に通う間の収入と、今の会社で積むはずだった経験。うまくいかなかったときに、元の業界へ戻れるか。

「何歳まで」という問いは、「どこまでなら失敗しても生活を維持できるか」に置き換えた方が、答えが出ると思います。これは研究に基づく話ではなく、私の整理です。

興味のない仕事を続けるのが「大人」なのか

「仕事なんだから、興味がなくてもやる」。この考え方を、私は否定しません。仕事を生活費を得る手段と割り切って、他のところに力を使う人もいます。

私が分からなかったのは、それがなぜ自分にはこんなに難しいのか、ということでした。給料が出ないわけではありません。極端に待遇が悪いわけでもありません。それでも、自分から仕事について調べたいと思えない。

この感覚を考えるヒントになったのが、自己決定理論でした。

Deci、Olafsen、Ryanが職場での研究をまとめたレビューでは、動機づけを大きく2つに分けています[3]。仕事そのものが面白い、あるいは仕事の目的を自分のものとして受け入れている場合(自律的)。外からの圧力や義務感で動いている場合(統制的)。自分で選んでいるという感覚(自律性)などが満たされると、自律的な動機づけが促されるとされています。

そう考えると、問いは「興味があるか」だけではなさそうです。興味がなくても、「家族のために」と自分で納得して選んでいるなら、自律的に近い。逆に、仕方なく続けているなら、統制的に近い。

私の場合、「会社を辞められないから続けている」のか、それとも「今の仕事を続けることを自分で選んでいる」のか。この二つは、同じ会社に残るという結果でも、意味が違います。

ただ、これは「興味のない仕事を続けられる人は大人、続けられない人は未熟」という話ではありません。どんな動機で働いているかによって、状態が変わりうるという話です。

「好きな仕事なら幸せ」とも限らない

では、興味のある仕事に就けば満足できるのか。研究は、そう単純ではありません。

Duffyらが働く成人201人を調べた研究では、「天職だと感じること」と仕事満足度などには関連がありました。ただし、「天職だと思える仕事を見つければ満足できる」という単純な結果ではありませんでした[4]。

さらに6か月間追跡した別の研究では、仕事に意味を感じ、満足していることが、その後の「天職を生きている」という感覚を予測していました[5]。

整備に興味があることと、整備士になれば幸せに働けることは、別の話です。

自分がおかしいのか、と考えたこと

「みんな我慢して働いているのに、なぜ自分にはそれができないんだろう」と思うことがあります。その延長で、「興味のあることしかできないのは、発達障害なのでは」と考えたこともありました。

成人のADHDを対象にした研究では、動機づけに関する特徴が報告されています。ドーパミン報酬系の指標と動機づけの特性との関連[6]や、報酬のために努力を払う意欲が低い傾向[7]です。

ただ、これは逆向きには使えません。ADHDの人に動機づけの特徴がみられることと、「興味のない仕事を続けられない人はADHDである」ことは別です。診断では、子どもの頃からの症状や、複数の場面での症状なども確認されます[8]。少なくとも、「今の仕事がつまらない」という理由だけで、自分に診断名を当てはめることはできません。気になる場合は、専門の医療機関に相談する方法があります。

結局、整備士にはならなかった

専門学校のことを上司に相談して、止められて、その道には進みませんでした。

今でも、ときどき考えます。あのとき専門学校に行っていたら、今ごろどうしていただろう。

整備士になって、「思っていた仕事と違った」と後悔していたかもしれません。収入が下がり、安定したメーカー勤務を辞めたことを悔やんでいた可能性もあります。逆に、もっと早く決断すればよかったと思っていたかもしれません。

行かなかった以上、答えは分かりません。

ただ、一つ変わったことがあります。「今の会社を辞めるなんて無謀だ」で、思考を止めなくなりました。

「家族がいるから無理」で終わらせるのではなく、家計はいくら必要なのか、妻はどう考えているのか、学校に通いながら育児時間を確保できるのか、失敗したら元の仕事に戻れるのか。そこまで考えて、それでも成立しないなら諦める。私は今、その方が納得できると思っています。

まとめ

結局、私は自動車整備士にはなりませんでした。あのとき専門学校に行かなかったことが正解だったのかは、今も分かりません。

ただ、「家族がいるから無謀」で考えるのをやめるのではなく、家計、育児、配偶者の考え、失敗したときの戻り道まで考えて、自分たちの家庭で成立するかを判断する。その方が、私は納得できます。

大人になることが、興味のない仕事を我慢して続けられるようになることなのかも、まだ分かりません。

自動車整備士にはなりませんでした。でもこの出来事以来、「自分はこれから何十年、何をして働きたいのか」という問いは、ずっと残っています。

参考文献

  1. 国土交通省「自動車整備士になるために」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk9_000003.html
  2. 国土交通省 報道発表「自動車技術の進化に対応する自動車整備士の育成を促進します~自動車整備士技能検定規則の一部改正について~」(令和4年5月25日) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha09_hh_000281.html
  3. Deci, E. L., Olafsen, A. H., & Ryan, R. M. (2017). Self-determination theory in work organizations: The state of a science. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 4, 19–43. https://doi.org/10.1146/annurev-orgpsych-032516-113108
  4. Duffy, R. D., Bott, E. M., Allan, B. A., Torrey, C. L., & Dik, B. J. (2012). Perceiving a calling, living a calling, and job satisfaction: Testing a moderated, multiple mediator model. Journal of Counseling Psychology, 59(1), 50–59. https://doi.org/10.1037/a0026129
  5. Duffy, R. D., Allan, B. A., Autin, K. L., & Douglass, R. P. (2014). Living a calling and work well-being: A longitudinal study. Journal of Counseling Psychology, 61(4), 605–615. https://doi.org/10.1037/cou0000042
  6. Volkow, N. D., Wang, G.-J., Newcorn, J. H., Kollins, S. H., Wigal, T. L., Telang, F., Fowler, J. S., Goldstein, R. Z., Klein, N., Logan, J., Wong, C., & Swanson, J. M. (2011). Motivation deficit in ADHD is associated with dysfunction of the dopamine reward pathway. Molecular Psychiatry, 16(11), 1147–1154. https://doi.org/10.1038/mp.2010.97
  7. Chong, T. T.-J., Fortunato, E., & Bellgrove, M. A. (2023). Amphetamines improve the motivation to invest effort in attention-deficit/hyperactivity disorder. The Journal of Neuroscience, 43(41), 6898–6908. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0982-23.2023
  8. 米国疾病予防管理センター(CDC)「Symptoms and Diagnosis of ADHD」(DSM-5の診断基準の紹介) https://www.cdc.gov/ncbddd/adhd/diagnosis.html

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